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第2章 晦日(つごもり)

そんな折、海外訪問中の雅達の両親・鴨志田当主が、列車事故で他界した。

月哉は十六歳、雅は三歳――。

まだ自分を守る術も持たなかった二人は、私利私欲に塗れた分家の者たちが台頭している一族の中で、機会を窺ってひっそりと待った。

月哉が大学在学中からめきめきと現した頭角により、鴨志田の総帥に史上最年少で就任し、鴨志田と宮前の主従は一旦落ち着いていた。

雅は今年中等部に上がったばかり、席を置いている私立鴨園学園も、鴨志田の百パーセント出資の学園である。

この学園は鴨志田の歴代の子息のために建てられ、富裕層の子息子女にも門戸を開き、創立百年を超える。

もちろん分家の宮前の従兄弟達も在籍しており、関連企業の子息達までいる。

言わば未来の鴨志田の縮図が、この学び舎にて繰り広げられているようなものだった。

(私の一挙手一投足を、いつも見られている。私の鴨志田としての資質を、いつも試されている。私の学園内での交友関係が、直接その親の会社同士の関係にまで影響する。だから、誰にでも平等に……誰にも執着せず――)

(――私は、あんな汚いことをする『大人』には成らない)

この思いは、初等部に入学した時から変わらない。



*     



「お嬢様、加賀美様がお見えです。本日のパーティーのエスコートを御約束されたとか――」

その日の夕方、雅がドレス用に髪をセットして貰っている最中、雅付きの使用人・後藤が言付けに来た。

(――信じられない……本当に来たの?)

「……私、約束していないわ、帰って頂いて」

雅は鏡越しに背後の後藤に指示するが、言われた本人は困った様に立ち尽くす。

「……どうかしたの?」

「それが……先程、月哉様宛に加賀美様のお父上、加賀美代表から直々に御連絡があったそうです――息子を宜しく頼みますと」

(あの人、親の力をつかったの?)

「……それで?」

「月哉様からも楽しんでくるように、との言付けを頂いております。ですので、同伴をお断りになるのは困難かと――」     

後藤は言いづらそうに伝えると、鏡の中の雅から目を反らした。

雅は使用人達に聞こえないよう、細くて長い溜め息をつく。

「……わかりました。準備が整うまで、待って頂いて」

かしこまりました、と後藤は廊下へ消えていった。

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