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第2章 晦日(つごもり)

雅は細い肩をすくめて見せた。

「家の肩書きを背負っていらっしゃるのですから、妙な行動は取られないと思いますが……何かありましたらすぐ、ご連絡下さい」

東海林が差し出した手に自分の手を重ね、部屋を出る。

「ありがとう……今のは、お兄様には内緒ね。心配掛けたくないの」

加賀美を待たせている階下の応接室に行くと、この時間に屋敷に居るはずのない兄が加賀美とお茶を飲んでいた。

「お兄様、お帰りだったのですね」

雅の頬が自然と綻ぶ。

「雅……、なんて美しいんだ! いつもの可愛い感じも良いが、今日のように綺麗なものも良いね」

月哉は立ち上がると、雅の姿をオーバーに誉めてくれた。

確かに赤いドレスが雅の大きくて黒い瞳と長くて濡れたように艶やかな黒髪、また口紅を付けなくても赤く潤うくちびるを引き立たせてくれていた。

「雅さん、綺麗です。エスコート出来るなんて私は何て幸せ者なのでしょう」

月哉に続いて立ち上がった加賀美が、一応誉めてくれる。

「………………」

(よくもそんな歯が浮くようなこと言えるわね。親まで使って、私に嫌がらせをするなんて――!)

一目で仕立ての良さか分かるスーツを着こなし、首元にアスコットタイをあしらった加賀美は、嫌味なほど似合っていた。

兄にばれないようさっと加賀美を睨むと、ドレスの裾を上げて挨拶する。

「そうだろう加賀美君。うらやましい、この後に用事がなければ私がエスコートしたいよ。しかし二人が同じ学園に通っているのは知っていたが、こんなに仲が良いのは知らなかったな」

何も知らない月哉が、ニコニコしながら二人の関係を詮索する。

(仲は最悪なのですが――  私は強迫されているのですが――)

雅はぐっと堪えて、言いたいことを飲み下す。

「ええ、良いお付き合いをさせていただいております」

加賀美は余裕綽々で社交用の微笑みを浮かべ、好き放題言ってくれる。

「お兄様、そんなお付き合いではありませんわ。そろそろ行ってまいります」

このまま加賀美をここに居させたら、何を言い出すか解らない。

雅はそそくさと出掛けようと加賀美を促す。

加賀美は月哉に雅を借りる旨を断ると、部屋を出ようとした。

その時――。

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