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第1章 繊月(せんげつ)

加えて容姿にも恵まれている。

黒く豊かな髪、二重ならぬ三重はある瞼の中の大きな瞳、綺麗に通った鼻筋、少し大きめの口が整った顔に少しの愛嬌を加えている。

背も高く全体的にスリムだが筋肉は薄く付いていて、スーツを着てもモデルのように映える。

だから周りの女達が放って置かない。

(これで、お兄様が笑っちゃうようなお顔だったら、ライバルも少なくて済むのだけれども……)

神様はそんな雅の願いを聞いてくれないようだ。

そういう雅自身の容姿は日本人形のようと評され、腰まで伸びたまっすぐの黒髪、雪のように白い肌に大きな黒目がちの瞳、口紅を塗らなくても紅い薄い唇。

冷たく見られがちな整いすぎた容姿だったが、一度笑えば、百合のように清楚な柔らかい微笑みとのギャップで、見るものの心を鷲掴みにする美貌だった。

「とても良いところですのね。私、こちらには初めて参りましたので、周囲を歩いて散策しておりましたら、偶然こちらの使用人の方が声をかけてくださって……」

「そうですか、このようなところでお会いできて光栄です」

紳士的に社交辞令を述べる、月哉の穏やかな声。

「ご家族水入らずのところ、あつかましくもお邪魔してすみませんでしたわ」

女がくすくすと嬉しそうに笑う声に、雅の神経が逆撫でられる。猫であったならば、背中の毛を逆立てているところだ。

(本当に邪魔だから――!)

雅はぎゅっと拳を握りこむ。

(第一、そんな細くて高いヒールのサンダルで、こんな山中の別荘地の歩道を本当に散策していたのだろうか。それに来る前からここに鴨志田の別荘があることは、調査済みだったのでは? きっと誰かに私達がここに来ることを聞いて、必死になって近所に別荘を持っている知人が居ないか調べたのでしょう?)

雅は心の中で、思いつく限りの罵詈雑言で女を扱き下ろした。

実際、後藤も女が何度も別荘の門の前を行き来し、中を窺っている様子を目撃していたので、雅の推測は正しいわけだが――。

多忙な兄が無理をして時間を空け、二泊三日のこの小旅行を実現させてくれたのだ。

なのに、せっかくの兄と二人きりのティータイムを邪魔され、くさくさした気分になった雅の胸の奥底に、黒いものが湧き上がってくる。

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