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第1章 繊月(せんげつ)

(あの女は最近、頻繁にお兄様の周りで見るようになった――。どうやら、そろそろ牽制したほうが良いかもしれない。とりあえず、今日はとっとと帰ってもらいましょう)

雅は何を思ったのか、足元のうっそうとした草むらについと視線を落とす。

膝丈のコットンワンピースの裾から伸びた足を草で切らないように注意しながら、目的のソレを探し始めた。

雅は昔からソレが大の苦手だ。

そして大概苦手な人は苦手なモノが潜んでいそうなところでは物音や葉の動きに敏感で、見つけたくなくても遭遇してしまう。

しかし積極的に遭遇しようとする時は、得てして見つからないようだ。

(まあ、いいわ……)

雅は躊躇なく、がっと足元のくぼ地に勢いよく踏み込んだ。

計算通り、身体がぐらりと傾き――、

「きゃあっ」

か細い悲鳴を上げ、重力に身を任せて草むらに倒れる。

ただ倒れる際に足をひねったようで、足首にずきっと痛みが走った。――これは計算外だ。

「雅っ?」

妹の悲鳴を聞きつけた月哉が、直ぐ反応して名前を呼ぶ。

月哉は勢いよく椅子を引き立ち上がる。

あまりに勢いがよすぎた為、椅子が大きな音を立て後ろに倒れた。

しかし月哉は気にせず、ウッドデッキから飛び降りて雅の元へ駆け出した。

「雅? 雅っ? どうかしたのかい?」

駆け寄った月哉は倒れてしゃがみこんでいる雅の傍らに、服が汚れるのも構わず跪く。

雅の細い両腕を大きな手で包み立たせようとすると、雅はつっと息を呑み苦痛に顔を歪ませた。

「……お兄様」

「どうやら足をひねったようだね、あぁ可哀想に……どんどん腫れている」

月哉は雅の足から、底の浅いサンダルを注意深く抜き取る。

白くて細い足首が熱をもって、見た目にも分かるほど腫れあがっていく。

「雅様、月哉様、大丈夫ですか?」

ついで駆けつけた使用人の後藤が、心配そうに二人の上から覗き込む。

「どうやら足をひねったようだ、雅、私の首に腕を回して、そう……痛かったらごめんね」

雅は言われたとおり月哉の首に腕を回してしがみついた。

首元から香るさわやかで控えめな香水が雅の鼻腔をくすぐり、雅は胸がいっぱいになる。

どきどきと心拍数が上がっていくのが、密着した薄い胸から月哉にも伝わってしまっているかもしれない。

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