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第2章 晦日(つごもり)

「先輩が私の秘密を誰かにばらしたければ、そうしてください。但し、先輩はただ『見た』だけであって、物的証拠もなにもありません。噂をひろめても只の噂で、私への脅迫にはなり得ないわ」

(――これ以上、この人の思い通りにはさせない)

雅は真正面から、大きな瞳で加賀美を睨んだ。

「………………」

車内は水を打ったかのように静寂に包まれ、車のモーター音だけが微かに聞こえていた。

「なんだ、つまんないの」

静寂を破った加賀美の声は、意外にもあっけらかんとしていた。

「もっと取り乱した雅が、見られると思ったのに」

「………………」

(――この人私を怒らせたくて、こんな回りくどいことしているわけ?)

困惑した顔を向けると、加賀美はいつものように微笑んでいた。

「しかしさあ、社長――雅の兄さんって、昔からあんなに独占欲強いわけ?」

加賀美は座席に座り直すと、強引に話題を変える。

「………………」

ますます訳が分からず、雅は戸惑う。

「俺も妹と弟がいるけど、ハグとかチューとかしないぜ?」

スキンシップの事かと雅は合点する。

「……あれは……小さいときの習慣が残っているだけで……お兄様にとっては、挨拶でしかないわ」

(解っている。私には気持ちのこもった行為だけれど、お兄様には挨拶以外の何物でもないってことくらい。私がいつも、一人でお兄様の行動に一喜一憂しているだけだわ――)

怒りが急速に醒めていき、雅は小さく嘆息した。

「そうか? 俺には『雅は私のものだ』って、俺に牽制した様にしか見えなかったけど」

加賀美は首をかしげる。

「……お兄様って今はお付き合いしている方、いらっしゃらないから」

「どういうこと?」

「お兄様、自分に恋人が出来ると、私なんか見向きもしなくなるのです……反対にフリーの時は私に構いまくるから、分かりやすくていいのですが――」

高等部から大学迄、月哉は恋人が出来ると何日も帰らない日が続いた。

月哉が社会人になってからは、雅が未然に防いでいたため、今のところは無いけれども――。

「恋愛体質ってやつ? だから雅、兄の恋路を邪魔しているのか」

「邪魔ではありません。お兄様に相応しいお相手かどうか、私が確認して差し上げているだけです」

雅がそっぽを向くのを見て、加賀美が苦笑いした。

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