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第2章 晦日(つごもり)

「じゃあさ、協力させてよ、雅の悪巧みに」

「……意味がわかりません。私にとっても貴方にとっても、なんのメリットも無いではありませんか」

雅は協力してもらうことにより、明らかに物的証拠を先輩に押さえられる。

加賀美にとってもそれ以外のメリットはなく、雅の犯す罪のリスクを負いかねないのだ。

「雅にとってのメリットは、俺のコネが使えることだ。俺は実際に事業を一部任されているから、その分実業界にコネがある。雅、秘書を使わず全部自分でやっているだろ? いくら資産があっても、出来ることは限られてくる。それに雅のコネを使うと、後でバレる可能性が高い」

加賀美はすらすらと雅のメリットを列挙してみせたが、次の瞬間、見るものを蕩けさせるような微笑みに変わっていた。

「俺にとってのメリットは勿論、雅のそばに居る理由が出来るから」

「………………」

(――結局また、からかわれているのか)

雅は内心溜め息を付きながら加賀美を見ると、加賀美は珍しく真剣な顔をしていた。

「将来、雅には沢山の求婚者が現れるだろう。その時に見ず知らずの相手を選ぶより、どんな人間かを知っている俺の方が、選ばれる可能性が高くなるからね」

(――これは……どういう意味だろう――なぜ、先輩は私の未来の夫に選ばれたいなどと思うの?)

「……それって、つまり………………先輩は私の事が好きなのですか?」

雅は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。

眉間に皺が寄るのがどうしても止められない。

(私はこの人といると、変な顔ばかりをしている。そのうち、頑固老人のように深い皺が刻まれてしまうかもしれない)

「最初っからそう言ってるでしょ?」

 困惑する雅を面白そうに見つめていた加賀美が、満面の笑みで答える。

(言っていません。貴方は私のことを好きだなんて、今まで一言も言っていません)

雅は盛大にため息をついて見せる。

「……私、先輩を利用するだけ利用して、見返りなんか与えないわ」

(だって、私は誰とも結婚なんてしないもの……大人になんてならないもの――)

「俺、結構自分に自信あるの。絶対雅に俺と一緒に生きていきたいと、思わせる自信がある」

加賀美はいつものように自信たっぷりに宣言する。

(絶対なんてものが、この世に存在するのだろうか。私に兄以外の人と見る未来など、あるのだろうか――)

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