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第6章 幾望(きぼう)

『さすがに今日はマンションには帰って来られないわよね、この人達、何日くらい飽きずに通って来てくれるかしら』

夢の中なので自由のきく体でヒョイと塀の上に腰かけ暫く見ていると、エントランスに黒塗りの車が二台着けられ、中からスーツ姿の男達が降りてきた。

皆ガタイがよく普通のサラリーマンには見えない。

ついで降りてきた人物を見て雅は自分の目を疑った。

『なんで……加賀美先輩がここにいるの?』

加賀美は男達に指示して待ち伏せしている男達に恐喝紛いの説得をさせ、一人残らず追い払ってしまった。

(あの見られてしまった封筒――それしかあの女と先輩とを繋げる糸はない)

加賀美は部下達に交代で一週間見張りをするように指示し、車に乗り込んで去っていった。



雅の視界が暗くなり、重い瞼を開くと私室の椅子に腰掛けていた。

「な……に……今の。――夢?」

頭ががんがんと割れるように痛む。

起きている筈なのに視界がかすみ、どちらが現実でどちらが夢幻なのか、境界線が曖昧になってくる。

重く感じる腕を伸ばし携帯電話を取ると、発信する。

三回の呼び出し音の後、相手が出た。

『はいは~~い、雅ったらやっと電話くれたんだね。全く番号教えてから何ヶ月たったと思ってる?』

明るい声で出た相手に、雅は低い声で言い放つ。

「先輩……今まで何処にいらっしゃったのです?」

加賀美が咄嗟に息を飲んだのが、電話越しにでも分かった。

『……何処って……親父の会社の近くだよ』

「嘘」

適当な言い訳をピシャリと遮る。

『……雅こそ今何処に――』

探りを入れてくる加賀美に、雅は静かに言い渡す。

「先輩……これ以上邪魔をすると私、何をしでかすか解りませんよ――」

『ちょっ……雅っ!』

雅は携帯を切ると電源を落とし、机に放り投げた。

また意識が遠くなると、今度は本当に気を失ってしまった。



「……様、……雅様!」

誰かが手を握り、その名を呼ぶ。

朦朧とした意識のままに覚醒し、薄く開いた瞼の間からボンヤリと相手を確認する。

「雅様……よかった気がついて。雅様は椅子に座ったまま意識を失われていたのですよ」

輪郭と声から東海林であることを確認し、雅はまた意識を手放そうとした。

しかし秘書に痛い程強く抱き締められ、否応なしに覚醒を余儀なくされる。

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