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第6章 幾望(きぼう)

「雅さん、どうして――」

「……敦子お姉さま、お久しぶりです。取材のお礼に行けず仕舞いで、申し訳ありません」

雅は居住まいを正して頭を下げる。

「そんなこといいのよ! それより……何があったの? どうして……こんなに痩せたの?」

敦子はベッドに近づくと、昨日の月哉と同じ質問を繰り返す。

「社長は夏バテだから気にする必要は無いとおっしゃっていたけれど……夏バテなんかでそこまで痩せる筈がないでしょう?」

「………………」

(貴女のせいよ、貴女が兄の心まで惑わせたから――!)

顔を見ると睨んでしまいそうで、雅は上掛けに視線を落としたまま黙り込んだ。

お互いの沈黙が、広い寝室の空気を重いものにする。

敦子はベッドに腰を掛けて雅を見つめた。

「雅さん……あのね……前に少し話したと思うのだけど私、妹がいたの、二つ下の。そう……ちょうど今の雅さんと同じ年の時に亡くなったのだけど――」

敦子は哀しそうな顔で微笑む。

「………………」

素行調査報告に載っていた、姉妹で男を取り合った上に事故死した妹の事だろうが、今の雅にはどうでもよかった。

しかし敦子は続ける。

「……私のせいで死んだのよ」

敦子は自嘲気味に笑った。

いつもの明るい敦子には、とても不釣合いな顔だった。

「地味だった私と違って妹はとても可愛らしくて、器用で、誰にでも愛される子だったの。小学校の頃から男女交際をして何人もと付き合っていた。中学にあがって、私と同じ中学に通い始めた妹は、直ぐに学校のアイドルになった。妹が望めば何でも叶っていたわ。

 そして、妹は私と同じクラスの男子を好きになったの……いえ、もしかしたらただ憧れていただけかもしれない。妹は直ぐに男子に告白したわ、断られるなんて誰も思っていなかった。

 けれど、彼は断ったの。妹は半狂乱になった、初めてだったのよ……男子に振られることが……。どんな手を使っても、彼の気持ちを手に入れると豪語した。当然彼と同じクラスの私も、協力させられることになったのだけど……」

頼んでもいないのに、すらすら雅の前で身の上話をし始めた敦子だったが、言いづらそうに口籠もる。

雅は何でこんな話をするのだろうと思ったが、視線で先を促す。

「彼は私のことが好きだから、妹とは付き合えないって言ったの」

「………………」

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