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第6章 幾望(きぼう)

冗談だったと思うわ……と敦子は苦笑いをする。

「でも、妹は信じてしまった。私が協力するように見せて裏切っていたのだと、私を攻め続けた。何日もそんなことが続いて、私も疲れてしまったのね。いつもの通学路で妹に問い詰められていた時、面倒になって妹を振り切って逃げようとしたの――」


『待ちなさいよっ!』

『もういい加減にしてよ美耶子! 私にそんな事を言い続けても博人君は美耶子を見ないよ! 自分を好きになって欲しいなら、博人君に直接言えばいいじゃない!』

敦子は腕をつかまれていた手を振り払うと、家の方向へ早足で歩いていく。

美耶子は図星を指されたのか言い返せず、敦子の後姿を睨み付けた。

『……お姉ちゃん、私の気持ちを知っていて、博人先輩の気を引こうとしたんじゃないの?』

ぼそりとつぶやかれた美耶子のつぶやきに、敦子が立ち止まる。

『……何が言いたいの?』

『お姉ちゃん、いつも私ばっかり親から可愛がられて、やきもち妬いてるんじゃないの? だから博人先輩だけは私に渡さないように、自分を好きになるように仕向けたんじゃないのっ?』

いつもの可愛らしい鼻にかかったような喋り方をかなぐり捨てた美耶子を振り向くと、顔を真っ赤にして怒りに震えていた。

『美耶子……そんな、自分のことしか考えられないようじゃ、いつまで経っても博人君は美耶子を好きになってくれないよ』

『…………っ!!』

美耶子は敦子に向かって突進し、突き飛ばそうとした。

二人は揉み合いになり、敦子が美耶子を押しのけると小柄な美耶子の身体が宙を舞う。

美耶子は運悪く土手から川へ続く長い階段を転がりおち、一番下のコンクリートで頭を打ち、即死した。

「もみ合いになって……妹は階段から転げ落ちて、死んだわ」

敦子は自分の掌をぎゅっと握り締めた。

「……私が……妹……美耶子を殺したのだわ……」

敦子の瞳から涙が零れ落ちる。

敦子の独白が終わり、また寝室には静寂が訪れた。

雅はというと、敦子の昔話をじっと聞いていた。

微動だにせず、冷めた瞳で見つめながら――。

(……だから……何? わざわざ見舞いで『自分の不幸話』をしに来たっていうの?)

雅は目の前で涙を拭く敦子に、ただ苛々する。

人に弱みを見せたり、自分をさらけ出したりすることを是としない雅には、敦子のこの行動が分からないのだ。

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