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第8章 十六夜月(いざよい)

栓のない考えを繰り返しながら煎りすぎた苦いコーヒーを飲み干すと、東海林は雅の病室へ戻った。

不在の間に加賀美が来ていた。

例に漏れず雅は彼の事も覚えていなかった。

加賀美も相当衝撃を受けていたが、意外にもその立ち直りは早く、雅に何かと話しかけては笑顔を見せていた。

後になって聞くと「確かに忘れられたのは辛かったが、これからまた一から覚えてくれれば良いと思って。生きていてくれただけで感謝したかった」と加賀美は洩らした。



数日後、雅は徐々に記憶を取り戻した。

不思議な事に、雅が初等部に入学する前の記憶、雅が敦子に初めて会った辺りから自殺する迄の記憶と、月哉に関する全ての記憶は何日経過しても戻ることはなかった。

敦子を覚えているかどうかは、本人と会わせなかったため確実ではなかったが、雅から敦子に対しての話題が出なかったのもあり、確認される事はなかった。

医師によると一連の記憶障害は、余程苦しい記憶で心が思い出すのを拒絶しているのではないか、との診断だった。

雅に兄の記憶は戻らなくても二人はすぐに、以前の様に仲睦まじい兄妹になった。

「雅は物凄く甘えん坊になった」

ある日、月哉は社長室に来た東海林に、苦笑いして言った。

「私が帰るまで起きて待っているんだ、食事も私と一緒でないと食べてくれない」

月哉は「参ったよ」と言いながらも、とても嬉しそうに笑う。

「雅様もまだ十三歳の子供ですからね、甘えたい年頃なのでしょう。しかし、食事は気になりますね。月哉様のお陰で拒食症は克服されましたが……」

徐々に月哉以外の記憶を取り戻した雅だが、拒食症の治療も平行して行わなければならなかった。

通常の病院食では臭いだけで気持ち悪くなり食べられない雅の為に、屋敷に連れ帰った月哉は付きっきりで食事に付き合った。

最初はゼリーから始め庭に家庭菜園を造り、兄妹でミニトマトやベビーリーフを栽培して命の大切さや食物のありがたさをひとつひとつ再確認しながら食に向き合った結果、雅は月哉がいれば普通に食事を取れるまでになった。

また大きく変わったのは雅の性格だった。

自我を出したことのなかった雅が、我が儘を言うようになった。

しかも屈託なく心から笑うようになり、その笑顔に皆が虜になった。

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