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色欲のいりひ
第3章 3
 徐々に空が青からオレンジ色に変わりつつあった。
 頭痛がし始める。
 来る。
 アイツが。
 俺は意識が朦朧としていた。
 今日こそは記憶の中に残したい。
 だがアイツがそれを阻害する。
 俺は頭を両手で抑えながら、床に片膝をつく。ぐらんぐらんと部屋がゆれる。一瞬目の前がピンク色になった……。
 今日も…… 。
 俺の負け…… 。
 ── 目覚めてもため息一つ出てこない。時刻は午後9時を過ぎたあたり。虫の音が聞こえてくる。パソコンの画面で動画を観る。確認作業の為だけに。気を失っている最中、茉莉は『すのこ』の部屋を抜け出し、トイレに駆け込んだ様子だった。
「ずるい奴だ」
 俺はそう思った。
 しばらくして茉莉が畳みの部屋に戻ってくる。そして『すのこ』の部屋に出てお丸を抱えて、再びどこかに行く。きっとトイレで汚物を流して風呂場で洗い流すのだろう。
 なんだかバカバカしくなってきていた。
 明日も茉莉と約束をしているが、断ろうかとも思い始めていた。
 なぜいきなり心境の変化が起きたのかはわからない。だがこの動画を観ている限り、俺は何も感じなければ興味すらわかない。少しばかし気持ち悪いとも思い始めていた。不思議な感覚だった。
 動画は毎回茉莉にみせる。
 そのたびに茉莉は、
「動画を流すのだけはやめてください」
 と懇願する。
 だから俺は動画を流すことだけは避けて来た。
 その代わりとして、アイツの生贄になれと、茉莉に言い聞かせて来た。そして茉莉は素直にそれに従っていた……。
 俺はスマホを取り茉莉の連絡先のかかれたアドレス帳を開く。右手の人差し指で画面をスクロールする。
 迷っていた。
 連絡をするかどうかを。
 踏ん切りがつかない。
 縁を切ることは構わない。
 むしろ歓迎だ。
 しかそうすることによって、アイツが暴れだし俺を苦しめると考えると、そう簡単に連絡を入れることはできなかった。
 アイツさへいなければ。
 
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