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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
『うん、またな』
 通話が切れた後、「言うの忘れてた」とLINEが送られてきた。
『今度、いっしょに夏祭り行こう』
 高校卒業の年にいっしょに行ったきりだから、五年ぶりのお誘いだ。
『うん』
 やったぁ、とスタンプを送って、私はようやく眠りについた。


「りお、何か顔色悪くない?」
 スタジオに入って声出ししていたら、ベースのユキヤに囁かれた。
「ちょっと寝不足なだけだから、大丈夫だよ」
「そっか。無理すんなよ」
 自分が悪いんだけど、心配かけたくない。
 嘉村さんがニセモノだったことで、メジャーデビューの話がぽしゃって気分が下がっているのは、みんな同じだし。
 百均でアルバイトしている間も、欠伸と憂鬱が交互に押し寄せてきてたいへんだった。でも、気持ちを切り替えないと次のチャンスを掴めない。
 みんなの準備が整ったのを確認して、ドラムのカウントが始まる。
『全世界に爪跡を残したい』
 学生時代に完成させた曲を、私は今も歌っている。メンバーは何度か変わったけど、今が最高かもしれない。
 高校の頃に結成したプラチナニコフは、メジャーデビューをめざして活動してきた。月イチのライブでの動員も少しずつ増えてきたし、何度も来てくれるお客さんもいる。
 私は、バンドで成功できるなら他の何もいらないと思って生きてきた。高校時代もバンド活動に費やしたから、進学は考えていなかった。今もバイトしながらオーディションを受けたりして、音楽中心の日々を送っている。
 八重歯なのが気になって、いつもうつむき加減でいたけど、歌うことを好きになってから、前を向けるようになった。賢人くんも応援してくれて、ライブのときはいつも観に来てくれる。
 ――おまえの声ってさ、聴いてると幸せになるんだよね。
 真顔で言う賢人くんの声を思い出すと、いつかは夢が叶うような気がする。
 練習を終えて、メンバーと変更点を確認しあった後、嘉村さんの話になった。
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