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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
「あの人、俺らには顔合わせ以降連絡なかったけど、りおには電話してたんだろ? 急に電話つながらなくなる前とか、何かなかった?」
ギターのソウシに訊かれたけど、私には本当のことは言えない。ホテルに行ったことも、酔わされてたぶん抱かれたことも。
「私も特に深い話はされなかったよ。ああいう人これからも出会うだろうけど、気をつけようね」
言いながら、もう忘れよう、と決めた。
なかったことにして前へ進むしかない。
賢人くんと約束した夏祭りの日は、朝から快晴だった。
私は久しぶりに着る赤い浴衣を用意して、楽しみにしていた。賢人くんと会うのは、一か月ぶりだ。
鏡の前で金色の髪をまとめ、少し笑ってみた。賢人くんが「可愛い」と言ってくれた歯が覗く。色付きのリップを塗って口紅を重ね、グロスでツヤを足した。
夕方になると人出が増え、夏祭りに行くらしい浴衣姿のカップルとすれ違う。待ち合わせ場所に立ってスマホを確認していたら、ふいに後ろから目隠しされた。
「だーれだ」
子どもみたいなことするんだ。
「賢人くん」
「当たり。ちょっと遅れてごめん」
シトラスみたいな匂いがふわっと漂っている。美容院で働きだしてからいつも香水をつけている。
賢人くんも浴衣を着ていた。
こんなふうに二人でお祭りに行くのは久しぶりだけど、あのときより少し背が伸びた賢人くんと並んで歩くと、子どものころに戻ったような気分になる。
「いい匂いするね」
「俺、今日すげー腹減ってるんだよね」
屋台が並んでいたので、焼きそばとフライドポテトを買った。
焼きそばにイカが入っていて、苦手だなと思っていたら、「おまえ、これキライだろ」と賢人くんが食べてくれた。私の好き嫌い、覚えてくれている。
人が多くて、いつもより少し身体を寄せ合わないと迷子になってしまいそうだ。小さいころよくしていたみたいに手を握ったら、恋人繋ぎにされてぎゅうっと握られた。大人になった賢人くんの力は強くて、男のコだなって思った。
だんだん日が暮れてきて、射的やヨーヨー釣りで遊んでいるうちに、打ち上げ花火の最初の一発目が上がった。
「あ、花火」
「見えるか?」