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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
「しっかりしてよ」
 叱咤されて、口唇を噛む。
 悩みがあると食欲がなくなって、夜も眠れなくなってしまう。学生時代もそれで授業中に倒れたりして、心配をかけていた。
 気持ちを切り替えなきゃ、と思い詰めるほど夜も目が冴えてしまうし、バンドの練習もうまくいかない。
「りおちゃん」
 うつむいていたら、聞き覚えのある声に呼ばれた。
「なっちゃん……」
 高校時代のクラスメイトの夏香ちゃんだった。ずっと私のバンド活動を応援してくれていて、ライブにも来てくれていたけど、去年結婚してからは、あまりしょっちゅう遊べなくなっていた。
「何か元気ないね」
「そんなことないよ。大丈夫。なっちゃんは」
「わたしも相変わらずだよ。涼太さんとラブラブ」
 ふふ、と笑うなっちゃんは、黒髪にメッシュを入れて青いフレームの眼鏡をかけている。サブカル好きで、私と違っておしゃれだった。
 昨年、大好きなビジュアル系バンドのライブに行って、最前列でヘドバン中に具合が悪くなって運ばれたのだ。そのとき、救急隊として助けてくれたのが涼太さん。なっちゃんは大学卒業後すぐに結婚して、今は雑貨屋でバイトしながら家事もしている。
「今日は涼太さんも遅くまで帰ってこないから、よかったらうちに来なよ。久しぶりだし、ケーキでも食べながら話そうよ」
「うん」
 幸せそうななっちゃんといると、前向きな気持ちになれそう。
 私は、バイトが終わってから、さっそく、なっちゃんのマンションにお邪魔した。
「どうぞー」
 ユニコーンの絵の付いたスリッパを出してくれるなっちゃん。
 玄関には結婚式のときの写真が飾られている。涼太さんは、なっちゃんを助けたのが救急隊員として最初の仕事だったらしい。水泳をやってたから肩幅が広くて、きりっとした爽やかなイケメンだ。
 なっちゃんは高校時代、学校にもあまり来られなくて、引きこもりぎみだった。いちばん落ち込んでいた時期は心療内科に通っていたこともあるし、友達が少ないって言っていた。涼太さんは、内気なところも含めてなっちゃんのぜんぶを好きになってくれたんだろう。たくましい腕でお姫様抱っこされていたウェディングドレスのなっちゃんは、本当に幸せそうだった。
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