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初メテノ夜ジャナクテ
第1章 1
 隠すのが思いやりかもしれない。けど、ずっと隠し続けられる自信がない。
「がんばって、応援してるから」
 なっちゃんに励まされて、私は賢人くんに伝える決心をした。


「みんな、ありがとう! 次の曲で最後になります。カリカチュア!」
 歪んだギターのイントロが鳴り響いて、会場が盛り上がるのを感じているうちに、ライブは終わった。三か月後には初めてのワンマンライブをやるつもりだけど、この調子ならきっと大丈夫。
 賢人くんと話そう、と終了後に彼の姿を探していたら、ぐっと腕を掴まれた。
「……ッ!」
 嘉村さん。
 電話もつながらなくなったのに、なぜここにいるんだろう。
 振りほどこうとする前に強引に引きずられて、ライブハウスの裏の路地へ連れ込まれた。
「りお、君のステージは最高だったよ。僕は確かに、レコード会社の者ではないけどね。裏ビデオを作ってるんだ。君を主役にして、最高の一本を撮ってあげるよ」
「離してっ」
 ぜったいにいやだ。
 冷徹な爬虫類みたいな顔に張りついた笑みが、気持ち悪くてしかたない。
 ――誰か助けて!
 願ったその瞬間、ガッと鈍い音が響いた。
 どさっと、嘉村の身体が崩れ落ちる。
「りお、大丈夫か!」
「賢人くん……」
 行こう、と手を取られて、賢人くんのバイクの後ろに乗せられた。
「ごめん、まだ答えも聞いてないのに。おまえのことが気になってしかたなかった」
「ううん……。助けてくれてありがとう」
 何度も遊びに行った賢人くんのアパートで、あったかい紅茶を飲んでいるうちに、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
 アーティストのポスター、練習用のウィッグをかぶったマネキン。青いベッドカバー、百均のカゴに刺さった調理器具。
 賢人くんの部屋は、飾り気がなくて居心地がいい。
 沈黙を破って、私は言った。
「さっきの人ね、レコード会社の社員だって嘘ついて、名刺渡してきたんだ。プラチナニコフをメジャーバンドにしてあげるって」
 私、バカだから信じちゃった。
 笑おうとしているのに笑えなくて、喉が鳴る。
「それで、デビューさせてやるからって、お酒に誘われて。逃げなかったから、最後まで……」
 襲われたわけじゃない。
 夢のために汚い手を使おうとしたんだから、私も悪かった。なのに、嗚咽が止まらなくて。
「りお……もういいから」
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