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レディー・マスケティアーズ
第10章 ポルトス&ダルタニァン ――パークサイド・パレス
「いや、どうも。どうも、専務。申し訳ありません」
 駐車場で待つこと一時間。汗にまみれ、旅行鞄を引きずるようにした田野倉が車の後部座席に転がり込んだのは、六時四十五分だった。
「いいから早く乗れ!」
 田野倉の小太りの体が全部収まるのを確かようともせず、浩一はベンツを急発進させた。
「あらかたの事情は電話で話した通りだ。おい、田野倉。わかっているな。おれが言ったことを、ここで反芻しろ!」
 助手席の茂が、吐き捨てるように言う。
「はっ、はい。専務。反芻いたします」
 田野倉が飼い犬のように答えた。
「ろっ、六月に、あっ、あのマンションから飛び降り自殺した桜井美里の……」
「馬鹿野郎! 自殺したなんて、誰も知っちゃあいない。警察も、あの女たちもだ!」
「はっ、はい。元からやり直します」
 田野倉は、涙とも涎ともわからないものを腕でぬぐった。
「六月に、あっ、あのマンションから、転落死した桜井美里のことを不審に思われた塚越の奥様が……」
「奥様じゃねえ! 塚越のババアだ。何をへりくだってやがる! こんな時に敬語を使うやつがいるか!」
「はっ、はい。そっ、そのババアが、銃士隊とかいう裏稼業のやつらに仕事を依頼した。そいつらの仲間はうちの会社に潜入し、専務が出入りされる秘密クラブにまで入り込んできた」
「おれじゃない! おれたち三人が出入りしているクラブだろ? 他人のせいにするな!それで?」
「はい。一人はアトスと呼ばれる女で、派遣社員を装って経理部に入り、うちの社の経理に不正がないかを調べようとしている。アラミスと呼ばれる女は、専務の、いえ、おれたちの動向を探ろうと、秘密クラブ『カフェ・アレクサンドル』に潜り込んだ。しかし、専務が正体を見破り、やつらの魂胆を洗いざらい吐かせた」
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