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レディー・マスケティアーズ
第8章 アトス ――トーホー開発 経理部
 松永は肩をすくめた。
――まあ、ご苦労様と言っておくか。田野倉といい管理人といい、おまえの手にかかればイチコロだな。さすがポルトス。「犯され屋」の面目躍如だ。
「変な褒め方をしないで。せめて『演技派』って呼んでほしいな。それと、吉岡さんと工藤さんにも、よろしく伝えておいて。強面の取り立て屋の演技、なかなかの迫力だったらしいわ。残念なことに、わたしはその場にいられなかったけど」
――わかった。では、坂上と早速に合流してくれ。次の報告を待っている。
 マイクのスイッチをオフにすると、松永は「やれやれ」という顔を傍らの館山千尋に向けた。
「それにしても、ポルトスやアラミスを見ていると、どこまでが仕事で、どこまでが趣味なのか、わからなくなるな。ターゲットの田野倉祐作を、これほど簡単に骨抜きにするのはさすがだがね」
 館山千尋も、その通りだという顔をする。
「何でも、あの子の身の上話に、田野倉がえらく感動というか欲情して、とんとん拍子に進んだそうですよ」
「身の上話? 他人を感動させるような身の上が、ポルトスにあったかい?」
「さあ。だけど、あの子。ああ見えて小説家志望だとか言っていたから、ツボは心得ているんじゃないかしら。特に男のツボを」
 松永と同じように、千尋も肩をすくめた。
「まあ、みんな頑張っているようだし、わたしもギアを上げないと」
 目の前に広げた資料類を片付けながら、館山千尋が言った。彼女のミッション。そちらも着々と進んでいた。
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