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レディー・マスケティアーズ
第8章 アトス ――トーホー開発 経理部
          
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 塚越涼子の口利きで、アトスこと館山千尋がトーホー開発経理部の契約社員として入社したのは一週間前だ。あらぬ疑いを避けるため、ポルトスこと山岸沙也子の入社日とは五日ほどずらした。
 経理部。専務である木庭茂が部長を兼ねるこの部署に入り込み、木庭の使い込みや不正の事実を突き止めるのが、今回の千尋のミッションだ。
 部員は全部で五人。部長の木庭茂がここに顔を出すのは日に一回あるかないかで、残り四人のうちの最年長は藤川芳郎という経理課長だった。後の三人はロボットのように不愛想な若い男女で、時計が五時を指すと、挨拶もなしにそそくさと帰宅する。
 それ以降経理部に残っているのは、藤川芳郎一人だ。
 いつも伝票の束と電卓を前にしている藤川芳郎は、見るからに貧相な男だった。てっぺんが禿げた頭にわずかに残っている髪の毛はもじゃもじゃで、何年も櫛を入れた様子がない。確か独身だという噂を聞いた。
 そのせいだろうか。度の強い眼鏡の奥に、好色そうな光が見え隠れする。
 ターゲットには、持ってこいの男だわ。千尋は、藤川芳郎に狙いを定めた。
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