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レディー・マスケティアーズ
第8章 アトス ――トーホー開発 経理部
                  
                 *

 当の藤川芳郎は、その夜も、人気のなくなった経理部の自席で検算に没頭していた。一円の間違いも見過ごせないのは、持って生まれた性分だ。
 それなのに専務の木庭は、このおれに二種類の帳簿を作ることを命じる。表帳簿と裏帳簿を作って、会社の金をピンハネしようというならわかる。しかし、プロの自分から見ても、どこに違いがあるのかと思うような二種類の帳簿。
 ちくしょう! あの気障野郎。
 正真正銘の経理マンであるおれに、何でこんな意味のない仕事を言いつけやがる。いくら万年課長でも、おれも男だ。このままで済むと思うな。
 この何年か、毎日のように念じている言葉が今日も口をついた。
 くそっ。どいつもこいつも、おれのことを数字に細かい、真面目しか取り柄のない堅物だと思ってやがるんだ。
 五十六歳になる今まで女と無縁だったのも、そのせいだ。
 女か。
 そう言えば、先週入ってきた四十過ぎのいい女。名前は館山千尋といった。あれは、おれの好みだ。縁なしの眼鏡をかけていて、無駄口も叩かず、男に色目を使うような様子は微塵もないが、あれはなかなかのタマだぞ。
 服の上から見ると、胸のふくらみはちょうど手のひらに収まるくらいだ。足首は折れそうに細いが、スカ―トをひん剥いて奥に手を入れたら、肉付きのいい、とろけるような太腿をしているに違いない。
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