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罪人の島
第1章 序章
美奈子の悩みは、既に話してあるのだし、問題には感じなかった。
ただ、院長が一緒にビアガーデンに来るなんて、あちらの心境の方が不思議に思えた。
今更、絵里と美奈子の二人と話をしても院長にとって楽しい時間になるとは思えなかった。
到着して最初に感じたのは、このホテルの装飾が下手だということ。
クリスマスに使う丸い電球のようなものや三角の旗のようなものが連ねて提げられていた。高級感もなく、ホテルの屋上のイメージからは遠かった。
「確かにビアガーデンは、夏の数ヶ月間だけの催しで、お金をかけずに利益を上げようという皮算用かも知れないけど、それにしても、おしゃれな港町のイメージとは、ほど遠いわよね? これだと、どこか田舎の釣り船が停泊する波止場と変わりないと思うわ」
自分から誘ったくせに、絵里の評価がとても厳しい。そう思うとおかしくなって、美奈子はくすくすと笑った。
「でもねぇ、ここは、日が沈むのを眺めるのには最高の場所なんだよ。周りには、やたらカップルが多いだろう?」
突然会話に入って来たその声は、院長のものだった。
美奈子は、振り返って驚いた顔を見せた。
「あ、ごめんなさい。後ろから急に話しかけたら驚くよね」
「いいえ、大丈夫です。おいでになるのは、わかっていましたから」
「先生、美奈子は優しいんですよ」
「知ってるさ。男性が守ってあげたくなるタイプの女性だよね」
「残念ながら、まだそう言って手を挙げてくれる人がいませんけど……」
「そうそう。私にもまだいません」
「いや、君の場合は、まだって言うか……その……」
「先生、もういいですって。無理矢理、言葉を探してフォローしなくても。それより、ビールでいいんですか? ボーイさんを呼びますよ」
三人は、そこでビールを飲みながら、夕陽を眺めた。
港を滑る客船や、遠くに立つタワーマンション、橋、何もかもが金色に輝き、美しさに見とれていると、それらは次第に赤みを帯び、最後は青と重なって紫混じりになると、闇に沈んでいった。
「海は好き?」
院長が二人に質問をした。
「ハイ!」
その時、美奈子と絵里は、同時に返事をした。
二人とも海辺で生まれ、海辺で育った。山には馴染みがないが、海からは離れられないと思っていた。