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罪人の島
第2章 島へ
「あっ! 大川善太郎の息子!」

 左の房の中に、見知った顔を見つけて驚いた美奈子は、思わず声に出してしまった。
 自分の口を隠すように手で押さえて景山の方を見ると、そうだ、と言うようにコクリと頷いた。
 それは、美奈子が景山病院にかかるきっかけとなった案件の当事者で、幼児虐待のもみ消しを図った実力者の息子だった。
 この男が子供を虐待しているのに、祖父であるはずの親が手を回して、子供を助けることができなかったのだ。
 右の房を見ると、この男の妻もいる。この男の名前は、大川良雄で、妻が利香子。
 忘れるはずもない名前と顔だった。
 二人とも再婚で、善太郎は、孫については、自分の血が混じっていないということで気にかけてもいない様子だった。
 良雄は、この期に及んでもまだ有名人の息子を気取っている。その態度には、呆れるしかなかった。
 更に驚いたことには、よく見ると、その次の顔も、その次の顔にも美奈子には見覚えがあり、知らないのは1人の男性だけだった。

「先生、これって……」
「そうですよ。ほとんどは、君が教えてくれた罪人たちだ」

 この3ヶ月の間、美奈子は実名を交えて、景山に話を聞いてもらっていた。
 つまり、そこから人物を特定し、児童虐待をしている男女が連れて来られたということだろう。
 そして知らない一人の男性は、景山の病院に母親が子供を連れて来て虐待が発覚したのだと言う。
 この件に関しては、母親は虐待をしていなかったことがわかったので、母子に対する支援だけをすることになったらしい。

「今から、彼らに償ってもらうんです。しっかり働いてもらいます」
「先生、もしかして、私のためにですか?」
「そうです、と言いたいところですが、実は、私にもいろいろな仲間があり、事情があるので、みんなで助け合える部分もあるのですよ。それについては、少しずつお披露目して行きます」

 景山の説明で全てがわかったわけではなかったが、美奈子の気持ちは動いていた。
 社会は法律によって守られている。それをサポートするのが行政だったり司法だったりするはずなのに、疑わしきは罰せずを利用して、その網をかいくぐる人間たちがいる、
 別に正義でなくても良い。許せないことを放置するのは同罪だと思う人間たちで行動を起こせば良いのではないか? 
 美奈子は、そう思い始めていた。

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