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はなむぐり
第9章 はなむぐり



「ねぇ、智さん」

蜜樹は正面を見たまま私を呼んだ。

「なんだい?」

「膝枕してほしいの。いいかな?」

紙のカップを両手で持ち直し、照れくさいのか目を合わさずに言った。

「いいに決まってるよ。おいで。コーヒーは飲んだのかい?」

そう言うと、大きく頷いて歯を見せて笑ってくれた。空のカップ二つをいつも持ち歩いているゴミ用のポリ袋に入れて、膝を叩いた。すぐに頭を膝に載せてきて、ベンチから放り出された両足は楽しそうにぱたぱた動いている。私を見上げる両目はきらきらと輝いていて、鼻の頭と頰がほんのり赤くなっている。両手に息を吐いて顔を包みこむと、嬉しそうに瞬きをしてにっこり笑う。

「幸せだなぁ…智さん、長生きしてね。一日でも多く、幸せな日を生きてね。蜜樹ね、智さんが大好きだからいつもそう思ってるの」

あたためようとした両手を、華奢な両手が包んであたためる。年を重ねたせいか、それとも寒いせいか。じんわりと目が熱くなる。

「ありがとう。身体に気をつけるよ。可愛い恋人の願いは叶えるよ」

「やったぁ…嬉しい。今日はいきなりお出かけに誘ってごめんね。外でくっつきたかったの。寒いのにね。智さんといるとどこでも楽しい」

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