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はなむぐり
第9章 はなむぐり




「私もだよ。愛してる。これからもたくさん出かけよう。蜜樹は可愛い可愛い恋人だよ。そして、大切な家族だ」

蜜樹は小さく頷くと目を瞑り、大きく息を吸って吐いた。

「そろそろ帰ろうか。日が落ちてきたよ」

さらさらの前髪を撫でながら、言った。

「うん。帰ったらお風呂にする?ご飯にする?」

「先にお風呂にしようか。一緒に入ろう」

「うん…いいよ」

いつもは首を横に振るが、今日はお許しが出た。

蜜樹は起き上がると大きく伸びをして、足元に落ちている赤い葉を2枚拾ってひらひらと動かした。

「思い出ね」

そう言うと私の右手を握って、ベンチから腰を上げさせてくれた。最近は腰が重くて手助けしてもらうことが多い。左手にゴミの袋を持って、アパートに帰る。

アスファルトに二つの影が映っていて、私は太くて蜜樹は細くて。こんなに大きくなったのかといまだに思う。きっと、兄もこうして二つ並ぶ影を見て成長を感じたり並んで歩いたり。したかったことがたくさんあっただろう。

「今日も楽しかった。ありがとう。智さん」

「それはよかった。明日も楽しんでもらえるように頑張るよ」

「頑張らなくていいの。そのままがいいの」

「分かったよ。ありがとう」

繋いでいる手を、フリースのパーカーのポケットに入れた。

「あははっ…本当の恋人だ」

「恋人だよ」

恥ずかしそうに顔を背けた蜜樹。

立ち止まると不思議そうに振り返った。

アパートの近くで、口づけをした。
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