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はなむぐり
第3章 膨らむ蕾
真夜中にその写真立てを缶ビールの前に置き、返ってくることのない会話を楽しむ。
蜜樹の成長が早く、はっきり覚えているのは高校に受かったという喜ばしい出来事から。
兄がいなくなってから、あの日のことを私も両親も蜜樹に聞くことなんてできず、ただ両親から聞いたのは夜中に隣で寝ていたはずの兄がいないことに気づき、泣きながら実家に電話をしたこと。
兄と蜜樹が住んでいたアパートから離れた場所の川の近くに、兄の車が停めてあるのを父が発見したという。
両親は今も自分たちのせいだと苦しみ、悲しむ。
私があのとき、兄に声をかけていればと。
もしくは女性との結婚を命がけで止めていれば…しかし、それでは蜜樹が。
最低な考えに毎日苦しむ。
蜜樹は父親が川で自殺した娘という、中には真実とは違う噂を耳にしたこともあるだろう。
こちらの中学校に入学してからはその噂は減ったが、今もなお耳にすることもあるだろう。
遠くの街に家族全員で引っ越そう。
そう言ったこともある。
『私はここがいい。ありがとう』
そう笑って言った。