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はなむぐり
第7章 恋いこがれる、はなむぐり
旅館に着くと、冬休みが始まったばかりだというのに駐車場には私の車ともう1台だけ。相変わらず静かで、空は高くて顔が痛い。
あの頃と比べて外観は綺麗になったが引き戸から漏れる妖しいオレンジ色の明かりは変わらず、旅館を囲む木々に積もった雪が不意打ちにドサッと落ちて鳥が驚いて飛び立つ。
蜜樹は赤いマフラーから口を覗かせて笑い、はあっと吐いて白くなる息にケタケタ笑う。
「私たちの町も寒いけどここには負けるね。すごく可愛い旅館。早く行こう!」
「あぁ。滑るから手を繋いで行こう」
「滑らなくても繋ぐもん」
蜜樹はいつにも増して楽しそうだ。
しかし、どこか無理をしているようなはしゃぎ方に胸がちくりと痛む。
一泊二日だというのに大きな黒いリュックを背負い、ベージュのコートからは膝上の黒いスカートが見え、黒いタイツに赤いブーツと、街中の格好。
冷たい手を強く握ってコートのポケットに入れた。