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はなむぐり
第7章 恋いこがれる、はなむぐり
ゆったりとした時間だった。
露天風呂から上がって少ししてから食事が運ばれ、彩り豊かな野菜と出汁のきいた繊細な料理が並び、蜜樹は満足そうに食べている。
あの頃分からなかった食材の味がやっとこの歳で分かって少し照れくさい気もした。
そして、春に渡しそびれた入学祝いを改めて蜜樹に渡すと、頰を真っ赤にさせて両手で受け取り、ありがとうございます、と深く頭を下げた。大きなリュックの内ポケットに大切にしまうと奥に手を入れて、細長い黒い袋を取り出した。
私の前に正座し、アルバイト代で買ったというネクタイとネクタイピン。
震える両手でそっと開けると、朱色で光沢があるネクタイ、そしてシルバーのピン。
重みがある、素晴らしい贈り物は一生忘れられないものだ。
そんなに頑張らなくていい。
生きているだけで、充分なんだ。
力いっぱい抱きしめて何度もありがとうと。
しつこいよと言われても、私は離さなかった。