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はなむぐり
第9章 はなむぐり
嬉しそうに私の右手を握って歩く蜜樹は相変わらずで、驚いた私の顔がおかしかったようで今もからかってくる。仕事終わりの私と蜜樹のお腹は雑踏の中でも分かるほど大きく鳴っていて、二人で決めて予約したお店へ向かっていた。駅を出てすぐの横断歩道を渡ったところにあるイタリアンのお店。2階建てのお店は個室もあり、ゆっくり過ごすにはちょうどよく、何より宅配のピザしか知らない蜜樹においしいピザを食べてほしかった。
レンガ色の建物の窓は白い枠で囲われ、イタリアの国旗が出入り口で揺れている。オレンジ色の明かりが美しく、お店に入る前に手を離した。蜜樹も分かっているようで、恋人から姪の顔に変わる。黒いドアの金色の取っ手を掴んで引くと、すぐに白いYシャツと黒いエプロン姿の女性が出迎えてくれて、名前を告げると2階の個室へ案内してくれた。木目調の落ち着いた店内はワインの空のボトルが並べられていて、本当に異国のようだった。
白い壁で仕切られた奥の窓際のテーブルに案内され、あらかじめ決めておいた料理が運ばれるまで、向かい合わせで座っている恋人をじっと見つめた。
「綺麗だよ」
そう言うと緩く巻かれた髪を耳にかけて俯き、小さく頷いた。
「疲れたかい?」
「ううん。なんだか緊張しちゃって。智さんが智さんじゃないみたい。こうして出かけるのってあまりないでしょう?私、いつもこの人と暮らしてるんだって。小さい頃から一緒にいるんだって思うと不思議で。なんだかおかしいの。自分が」