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はなむぐり
第9章 はなむぐり
そう言うと窓に目を向けた。伏し目がちな横顔が兄に似ていてはっとする。
「この先どうなるかなんて分からないけど、智さんと生きていくことは譲れない。お父さんだって、私が暗く生きてるより大好きな人と笑って生きていくことの方が嬉しいに決まってる。家族なだけだよ。智さんが私の将来を心配してくれてるのは分かってる。私は好きな人と生きる今を大切にして、未来の自分の力にしたい。たとえ一人になっても」
外の景色に目を向けたまま話す蜜樹の横顔は凛としていて、こちらに顔を向けたときにこぼれた笑みは立派な美しい女性そのものだった。
私が常日頃、考えている蜜樹の将来。私が先に死ぬのは目に見えていて、誰かと幸せいっぱいの恋愛をしてほしいという気持ちと、私を忘れないでほしいという身勝手な気持ち。
「ありがとう。私はすごく幸せだ。この年齢になって好きな人と過ごす時間が愛しいよ。蜜樹には幸せになってほしい。私がいなくなったとしても。でも、蜜樹と過ごす日が増えるたびに、私を忘れないでほしい気持ちが芽生えてきた。兄には申し訳ない気持ちしかないよ。それでも私は蜜樹を愛してる。生きているうちに、嫌というほど愛して守る。これが本当の気持ちだよ」
嘘が通用しない真っ直ぐな両目を見て言うと、しだいに黒目が揺らいで瞬きをすると桜色のチークが塗られた頰を伝う涙。持っていたタオルハンカチを渡すとオレンジのアイシャドーが落ちないように両目を押さえた。