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淫縛~寝盗られ妻は逝き色獄に淫涙を流す(旧タイトル:淫妻)
第5章 チャプター05
 タクシーを呼んでもらったので、もう充分ですから歓迎会に戻って下さい、と告げたのだが麗は意外に頑固で、家まで送り届けますと、言い切られてしまい、既に体調不良で、抵抗する気力を失っていた智は麗に言われるまま、タクシーに同席することを許すこととなってしまった。それだけでなく、麗は智のアパートにあがりこみ、後は寝室のベッドに休むだけで済むように、色々と準備を整えてくれたのだ。
 翌日、営業課の男性陣からは麗の母性本能をくすぐるためにわざと、悪酔いをした演技をしたのではないか、などと言われたものだが、演技などでは決してなかった。
 そこまでしてくれて、お礼の一つもしなければ、社会人としては失格だろう。また営業課のみんなにからかわれるのだろうな、と思いながらも、ダメ元で智は夕食でもいっしょにどうですか、と麗に声をかけてみたのだ。自分としては、そこまで気にされなくても、と断れると思っていたのだが、答えは何とOKだった。どうして、自分のような冴えない男と、と思いながら、また営業課のみんなに軽口を叩かれつつ、ふたりで夕食に出かけたのだった。
 実際に麗と話してみたが、意外にも趣味が一致していたし、智のつまらない世間話にもころころと、耳に快い声で笑ってくれた。こうして夕食の誘いに応じてくれたのも、何かの間違いでは、と思ったのだが、食事の間――いや、その後、彼女に誘われるままに訪れた居酒屋や夜景の望める展望台レストラン、夜の水族館などでも彼女の態度は終始、にこやかで変わることはなかった。智も麗は、どうせ高嶺の花なのだし、一夜限りのデートなのだからと、楽しむことにした。
 だから――別れ際に当然のように、次はいつ、デートしてくれますか、と言われた時は大いに動揺してしまった。とっさに言葉に詰まり、混乱している智を見て、麗はにっこりと笑うと、では私のほうから、都合のいい日を伝えますので、連絡先を教えていただけますか、と言われた時は本当に夢でも見ているのではないか、と思ったものだった。
 その日のことを思い返し、ぼくのどこが気に入ったんだい、と一度、麗に聞いてみたことがある。が、彼女はそんなこともわからないのは夫失格ね、と微笑むだけで、何も教えてはくれなかった。
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