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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章

「遅かったな。何かあったか?」
戻った時には、丁度部屋から響と隈川が出てくるところだった。
今口を開いたのは隈川だったが、隣の響も同じようなことを言いたげな顔をしている。
「いえ、何でもありません」
幻聴が聞こえてエントランスの真ん中で叫んでいた、なんて正直に話したら、隈川からげんこつが飛んでくるのは間違いない。
響には、心配をかけてしまうかもしれない。
一連の様子を見ていたであろう一ノ瀬には『黙っていろ』という合図を目で送る。
それを正確に理解した一ノ瀬は、呆れながらも何も言わなかった。
そのちょっとしたやりとりを、一人の男が不審げに、不満げに見ていたことに、琉泉は気づかなかった。

