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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章

「いやぁぁっ!!!」
朝の優しい光が差し込む部屋。
ぼやけた視界に映るのは、見慣れた天井とそれに向かって伸ばした自身の手だった。
「はぁっ、はぁっ、……」
心臓がうるさいくらいに鼓動を打つ。
息も荒く、寝汗はいつのまにか冷え切って冷汗にかわっている。
響き渡った自分の声を聞いて、佐伯 琉泉は深いため息をついた。
(あぁ、また、だ…)
どこへ向かって助けを求めたのかも分からない手を力なく下ろし、布団から身を起こす。
(また…あの夢……)
夢を見ていた。記憶からずっと消えることのない、あの日の悪夢を。
「カタン……」
体を起こしたままベッドの上でボーッとしていた琉泉は、隣から聞こえた音にハッとする。
(……向こうまで聞こえてたかな)
そう思ったのと同時に、足音が聞こえてきた。
(やっぱり…)
琉泉はこの足音の主を知っている。
「琉泉?入るぞ」
了承の返事も聞かずに開けられたドアの外には、整端な顔立ちの男のが立っていた。
八神 響、27歳。
琉泉とは2つ年上の幼馴染で、国内でも大企業として名高いYAGAMIホールディングスの御曹司だ。
180cmの長身に、丁度良いくらいに付けられた筋肉。
世間では細マッチョというのだろう。
キリッとした目元が、黒髪との絶妙なバランスでイケメンの相乗効果を発揮している。
「…おい、大丈夫か?」
ボーッとその美しすぎる容姿を眺めていると、さすがに相手も不審がったようだ。
切れ長の目がさらに細められる。
「…ごめん、大丈夫。いつものだから」
響は返ってきた言葉に少し眉根を寄せるも、そうか、とだけ呟いた。
「先に行ってる。落ち着いてからでいいから、ゆっくり来い」
「うん」
響が去り、ドアが閉まったのを確認してから琉泉は大きなため息をついた。

