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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章

改めて部屋の中をぐるりと見渡す。
8畳ほどある面積に、質の良いベッド、鏡台、本棚、クローゼット、作業机などが配置された統一感のある部屋。
(私は、恵まれてる…)
あの悪夢には続きがある。
どこまでも追いかけてくる大人たちの恐怖にひたすら耐え、裏路地で震えながら隠れていた時だった。
「…はて。なぜこんな場所に子どもがいるのかな?」
頭上から降ってきた少し低めの声に、ビクッと体を振るわせる。
早く逃げなければ、と思うのに、走り続けた身体は言うことを聞かず、一歩も動くことができない。
「ここは子どもがくるような場所ではないよ。お家はどこかな?」
「…………帰りたくない」
もう、帰らない。
あんな悪魔が住む場所には。
そんな意思を持った目で、話しかけてきた男を下から睨みつける。
暗くて顔は見えないが、高そうなスーツにハットを被り、杖をついているのはわかった。
「そうか……君は……」
男は驚いたような声で呟いたあと、なにやら考え込むように黙り、また口を開いた。
「帰るところがないなら、うちに来なさい。なーに、心配することはない。君を傷つけたりはしないよ」
ネオン街の光でかすかに見えた、男の目。
それは、まっすぐで力のこもった強い瞳だった。
これが、佐伯 琉泉とYAGAMIホールディングス現会長、八神 偀(やがみ すぐる)との出会いだった。

