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愛することで私たちは罪を犯す
第2章 2. 偽りの世界

…………………………
「はぁ……」
同時刻、本社ビルの4階。
表通りとは逆の裏通りに面する外裏階段に、琉泉はいた。
ここは琉泉が響のボディーガードとして働き始めた頃からお気に入りの場所で、よくきている。
「どうしよう…」
あのとき。こともあろうか自分から近づき、してしまったあの瞬間。
最初に浮かんだ感情は、「やってしまった」だった。
口から勝手に出た謝罪の言葉を投げかけてみたものの、相手は呆然としたまま。
居た堪れない気持ちになり、逃げ出してしまった。
あれから、響に何を言われるのかが怖くて、ろくに目も合わせることができない。
ひどい話だ。
自分から勝手にしておいて、ちゃんとした謝罪の言葉もないまま逃げ回っているなんて。
このままではいけないということも分かっている。
分かってはいるが……。
「気まずい……」
恋愛感情を持っていない相手からのキスは、不快なだけだと以前読んだ女性誌には書いてあった。
愛されているとは思う。
ただそれは、家族に向けるような、妹に向けるような愛情だ。
年頃の妹にキスをされて、果たして相手は不快感を持たずにいられるだろうか。
琉泉には血の繋がった兄妹がいないため、全て職場の人たちから聞いた印象にすぎないのだが。
もし。もしも。
響に嫌われてしまったら…。
引かれてしまったら。
それほど怖い事実は、きっとこの世にない。
「…謝ろう」
生きていくのに必要な資金は一応ある。
許される、許されないは置いておいても、謝ることは絶対にしなければならない。
何気なく見上げた空は、今にも雨が降りそうな曇り空だった。

