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愛することで私たちは罪を犯す
第2章 2. 偽りの世界

「さぁ、お手をどうぞ」
先に車から降り、相模から手を差し出された琉泉は、表情は表に出さず、差し出された手に自らの手を置いた。
「ご案内いたします。琉泉様」
「……はい」
(え、待って……今…琉泉様って…)
聞き馴染みのない呼び方に違和感を覚えつつ、本邸の中へと入っていく。
中は、控えめに言っても豪華絢爛な装飾で溢れかえっていた。
物の価値が分からない琉泉でさえ、一つ一つの物が高級なものだってことは分かる。
「すごい…」
ボソリと呟かれた言葉に、相模はフッと笑みをこぼす。
「さて、琉泉様。少し、奇妙なお話を致しましょう」
琉泉が前を歩く自分に意識を戻したことを感じ取り、相模は語り出す。
「世間にはあまり知られておりませんが、現会長には、現社長である拓武(たくむ)様というご長男の他にもう一人、李月(いづき)様というご子息がおられました」
急に始まった皇家の歴史話に、なんの意図があるのかと怪訝に思いながらも耳を傾ける。
「次男ながらも李月様には経営の才がとてもおありで、皇をさらに発展させるべく勤しんでおられました。しかし、19年前、何者かによって、奥様の瑠莉(るり)様共々、自宅にて殺害されました。当時の警察は、物取りの犯行だと見立て、捜査しておりましたが、結局犯人は逮捕されませんでした。不幸中の幸いと言っていいのかはわかりませんが、お二人にはお嬢様、つまり娘が一人いらしたのですが、違う部屋でお休みになっていたため、無事でした」
瑠莉という名に、琉泉はなぜか胸がざわついた。
なぜ自分にこんな話をするのか、分からない。
いや、分からないふりをしていたいだけなのかもしれない。
「当時6歳だったお嬢様は、両親が他界したことを理解していたのかは分かりません。ですが、両親が殺害された日から一週間後。そのお嬢様は行方不明となりました」
「行方…不明」
「はい。すぐに周辺を捜索しましたが、お嬢様は結局見つかりませんでした。警察は、誘拐されたのではないかと見立てておりましたが、金銭の要求などの電話が鳴ることはありませんでした。……お嬢様は、消えてしまったのです」

