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愛することで私たちは罪を犯す
第2章 2. 偽りの世界

とても、静かな声だった。
歩いている屋敷の廊下はとても明るいはずなのに、琉泉には薄暗く狭い道を歩いているような錯覚をおぼえる。
「……その子は、まだ、見つかっていないんですか」
声が、震えた。
いや、声だけではない。
手も、足も、気づけば震えていた。
「いいえ。灯台下暗し、といったところでしょうか。彼女は案外、我々の近いところにいたのです」
寒気がする。
身にまとわりつく空気は生温いはずなのに、冷汗がとまらない。
「さぁ、着きました。こちらが、会長のいる部屋になります」
琉泉の目の前にあるドアは、とても大きく、自分が異常に小さく感じるほど圧のあるものだった。
相模は顔に貼り付けたような今までの笑顔をすっと消し、琉泉の方へ振り向く。
「琉泉様。おかえりなさいませ」
60度。
綺麗な礼をされ、いよいよ琉泉は震えを隠せなくなっていた。
それを知ってか知らずか、相模は顔を上げ、そのドアをノックする。
「旦那様。…琉泉様がお見えになられました」
「入りなさい」
ドアが、開けられる。
相模に促され、おぼつかない足取りで部屋の中へと進んでいく。
とても広い部屋には、豪華な装飾、家具、そして中央に置かれたソファに一人の男性が座っていた。

