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愛することで私たちは罪を犯す
第2章 2. 偽りの世界

「あぁ、琉泉…。もっと、もっと近くへ」
80代くらいだろうか。
白髪で、腰は曲がっていながらも瞳の奥に鋭い眼光をもつ老人が、琉泉を手招きする。
琉泉は何も言わず、否、何も言えずに、震えた足取りで老人の目の前まで進んだ。
「琉泉……琉泉や。怖かっただろう、いままで。知らない者たちに囲まれ、生活するのは。だが、もう大丈夫じゃ。あの忌々しい八神なんぞに渡しはせん」
よぼよぼな手を、自分の手に重ねられる。
何を言っているのか、理解できない。
知らない者?忌々しい八神?
琉泉からしたら、知らないのは目の前にいる人たちで、八神家の人たちを忌々しいだなんて思ったこともない。
むしろ、感謝しているくらいだ。
「あの…」
「今は八神の本邸に住んでいるんじゃったな。すぐにこちらに引っ越して来なさい。なーに、心配することは一つもない。ここじゃったら、新しい仕事も住む場所もいくらでもあるからな」
「え……」
引っ越す?新しい仕事?
琉泉の頭はいよいよパニック状態だ。
ただただ呆然と目の前の老人を見下ろすしかない。
その様子をみて、一歩後ろで控えていた相模が声をかける。
「旦那様。琉泉様は少しお疲れのようですので、そろそろ」
「あぁ、そうじゃな。相模、琉泉の部屋をすぐに用意しといてくれ。琉泉や、また落ち着いたら積もる話でもしようぞ」
相模は会釈をし、琉泉の背中を押して部屋の外へと出た。

