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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章

「おはようございます、奥様」
「あら琉泉さん、おはよう。今日は随分とごゆっくりなのねぇ」
「申し訳ございません」
本邸の広いダイニングルーム。
すでに席について優雅に朝食をとっている、現社長の妻 沙織(さおり)にチクチクと小言を言われながら、琉泉も朝食の手伝いに入る。
「そんな意地悪を言わないであげてください。琉泉も、疲れているのでしょうから」
沙織の向かい側に座って食事をとる響が、笑みを浮かべながら言った。
一応、助けてくれたらしい。
(愛想笑いだわ)
本人はうまく隠しているようだが、長年側にいた琉泉には分かってしまう。
この笑みは、完全な愛想笑いだ。
響は、この沙織のことが苦手なのだろう。
沙織は響の母親が亡くなった後、後妻として八神家に入った人間だ。
もちろん、響と血縁関係はない。
響自身、父親が後妻を迎えること自体に抵抗はなかったようだが、その相手が問題だったらしい。
正直、琉泉もこの女性のことが苦手だった。
悪い人ではないのだが、お小言がいちいち多い。
前の奥様、つまり響の実の母親の鈴音はとても優しく、思いやりのある人だった。

