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『君×僕×妖怪』
第2章 ―記憶―
「――あれ…寝てた…?」
灯りの眩しさに細められた橙の瞳で錺を探した。重い体を起こして狭い部屋を見渡すも錺の姿はなかった。
(夢、かな…)
不意にそう錯覚させる。まだ起きているのか夢の中なのかすら頭は理解していなかった。
「…起きたのか」
ふと開かれた襖からは探していた相手が覗いていた。隙間から外を見るに、とっくに日は暮れていた。月明かりのみが辺りを照らし、錺の影も声がなければ判別しにくい。
「うん。……あ、どうしたのさ急に」
返す言葉に詰まって必死に紡ぐ言の葉を探したが、これ以外が出なかった。
「本家がお前一人になったと聞いてな…お前に此処を任せたらいつ家を潰されるか」
冗談のつもりだろうが、抑揚のない声からは冗談かどうか判断が難しい。日向がムッとした表情を返してやると錺は喉の奥をクク、と小さく鳴らせた。
「子狐さん、…世は戦乱だ。すぐに巻き込まれる」
大袈裟な冗談を、と思う。実際彼等の世界は日々穏やかで、戦乱なんて間違っても起きない。