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6月の花婿
第2章 仕掛けられた罠
「どなたかな?どうぞ。」
男の返事を聞いて、部屋の中へ足を踏み入れた。
「雑誌Soundの担当編集、汐田です。お待たせしてすいません。」
一枚の名刺を取りだし、足をふみだそうとした。
ところが汐田の名前を聞いて、男は椅子から立ち上がった。
長い足で汐田の目の前まで歩み寄ると、微笑んで名刺を受け取った。
戸惑う汐田を余所に、男は汐田の手を取り椅子へ促した。
「先ずは座って。」
「あ、ありがとうございます。」
「僕は呉グループ会長の呉 皐月。悪いけど、名刺は無いんだ。」
申し訳ない、と付け足した。
容姿で人を判断するのはどうかと思うが、いかにも苦労の少なそうな人だと汐田は感じた。
とは言え、対応は丁寧で嫌味なところもない。
急に取材拒否をして、周りに迷惑を掛けまくったような男にはみえない。
しかし、それは汐田の思い違いだとすぐに気づかされることになった。
「いえ、とんでもないです。名前は何度か耳にしていました。どうもはじめまして。」
「こちらこそはじめまして。どうぞよろしくね。」
「よろしくお願いします。」
軽く頭を下げた。
そして、ずっと気になっていたことを尋ねた。
「呉様は、どうして私をお呼びに?」
「それは…」
聞いて、汐田は絶句した。