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6月の花婿
第2章 仕掛けられた罠



「今…なんとおっしゃいましたか…?」

「だからね、顔だよ。顔が気に入ったから。」


呉は涼しげな顔でそう言った。

汐田は呆然とするばかりで何とも言えないほど打ちのめされた。
ここは出版社で水商売の場とは違うと、言い返したい気持ちはあったが、相手が相手なだけに怒りを飲み込んだ。


「顔、ですか。褒められたようなものでもないですけどね。」

「そんなことないさ。可愛い顔だよ。」


汐田は、自分が童顔な女のようであることを自覚していた。
容姿は気にしない質なので、あくまで自覚したまで。

しかし、呉にそれを指摘されたことにどうしてか不快感を覚えた。


「いえ、別に。…そろそろ、仕事の話をしましょう。」

「それもそうだ。ランチ時だから、お店に移ってからゆっくりとね。」

「はい。」

「では、僕の車を回して貰おう。」




会社の前には、黒い高級そうな外車が止まっていた。
汐田の家にも似たような車は沢山あるため、驚きはしなかったが人目を引くのは避けられなかった。


目立ってしまうのは車のせいだけではなく、日本人離れした呉の容姿のせいもあるようだ。

汐田は車に乗り込むと、呉の話に適当な相槌をうった。

店についてから仕事の話をしたが、それも前にした取材の記事に付け足す内容の確認や書類を渡すくらいのものだった。

残った時間は雑談となり、美味しいご飯を食べて終わった。
最初は嫌々だったが豪華な食事は久しぶりで、汐田は得した気分で会社へ戻った。


呉から受け取った連絡先は捨てるのも憚られ、手帳に挟んでしまった。




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