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6月の花婿
第2章 仕掛けられた罠
そして手帳をジャケットにしまおうとした時、挟んでいたもう一枚の紙がひらりと落ちていった。
「あ、これは…。」
汐田が慌てて拾ったそれは、ある会社のチラシだった。
チラシには、恋人代行業者と記してある。
汐田にはこれを利用して、両親の強引なお見合いを避ける作戦を練っていた。
しかしこれがまた、中々上手くすすまなかった。
「汐田、今月号のコラムそろそろ上げられるか。」
神田の声で我に帰った汐田は、書き上げた原稿を手渡した。
編集の仕事は定時に帰れることがほとんどなく、1日の仕事が片付いたのは9時過ぎだった。
「おっ。今日は早い方だな。」
「ですね。終電までかなりの時間がありますから、珍しいです。」
「よーし。みんなで飲みにでも行くか!」
編集長の一声に盛り上がり、営業部のメンバーも混ざって飲みに行くことになった。
「編集長、俺今日はちょっと…。また誘ってください。」
「何だよ、付き合いわりぃぞ。」
神田は拗ねた子供のように唇を尖らせた。
しかしもういい年のおっさんがそんなことをしても、少しも可愛い要素はなかった。
「気色悪いっすよ。」
「まったくだ。それに汐田は勘弁してやろう。今日は大変だっただろうからな。」
編集長は苦笑しながらそう言った。
「助かります。では、お先に。」
帰りの電車に揺られながら、汐田は眠気と戦った。
初対面の人と話し食事をするのは、自分でも気づかないうちに体力を使うらしい。
家までたどり着いたときにはもう限界で、シャワーを済ませてそのままベッドで眠りについた。