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夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
…けれど…。

…戦争が…終わった…。
戦争が、終わったんだ!
終わったんだ!

身体の中から湧き上がる不謹慎なまでの弾けるような爽快感を抑えることができなかった。
…それから、胸に浮かんだ暁人の面影…。

…暁人…!

「失礼します!」
執務室を駆けだした。
「薫?どこにいくんだ!?」
背中に飛ぶ紳一郎の声を振り払うように廊下を駆け抜け、足速に階段を降りる。

寄宿舎を抜け出し、渡り廊下を渡る。
昨年の火事で焼け落ちた礼拝堂に出る。

…奇跡的に焼失を免れた石造りのマリア像…祭壇…ステンドグラスの破片…。
まるで空襲にあったかのような殺伐とした有様だ。

…けれどもう、空襲のサイレンに怯えることもない。
じわじわと嬉しさが込み上げてくる。

「…戦争が…終わった…。
戦争が、終わったんだ…。
終わったんだ!終わったんだ!」
飛び跳ねたいような気分だった。

薫の足元に、温かな塊がぶつかってきた。
ドイツシェパードのカイザーが嬉しげに舌を出して薫を見上げていた。
…年老いたカイザーは、最近動作ものんびりだ。
けれど、薫の居場所はすぐに分かるらしい。
「カイザー!」
しゃがみ込んでカイザーを抱きしめる。
「カイザー!
戦争が、終わったよ…!
暁人が…帰ってくる…!
ねえ、カイザー。
暁人はもうすぐ帰ってくるよね?」
カイザーはその名を聞いて、高らかに吠えた。


慌ててマリア像の前に立ち、両手を組んだ。
「マリア様。僕は無神論者です。でもお願いします。
暁人が無事に早く帰ってきますように。
一日も早く…僕のところに…!」

…ふと、思いつき…
「あ、あと、十市さんも無事に帰ってきますように…」

言いかけていると、薫の背後から憮然とした声が聞こえてきた。

「ついでのように言うな」
振り返ると、つんと澄ました白い京雛のような表情の紳一郎が腕組みをして佇んでいた。



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