この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater52.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
「…あ…」
悪戯が見つかった子どものようにばつの悪い貌をする。
「…全く…お前は…。
来月からここの教師になるというのに、ちっとも自覚がないな。
日本は負けたんだ。
露骨に嬉しそうな貌をするな。
…生徒の中には身内を亡くしたり、家が空襲されたものもいる。
個人的感情を露わにするな」
紳一郎は美形なだけに、怒ると本当に怖い。
「…はい…すみません…」
しょんぼりと頭を下げる。
険しい表情のまま、紳一郎が近づいてくる。
「これから、学院も教育方針の修正や矯正を迫られるだろう。
僕たちは政府の発表に一喜一憂するわけにはいかないんだ」
「…はい…」
カイザーが足元で、困ったような貌をして薫を見上げている。
…カイザー…、主人のデキが悪いと、お前も苦労するなあ…。
…不意に、涼やかな花のような薫りと温かな体温に柔らかく抱き込まれた。
「…良かったな…。
…戦争が…終わったな…」
…震える掠れた声…。
「…紳一郎さん…」
抱きつかれているから、表情は見えない。
「…暁人が…帰ってくるな…」
…優しい…兄のような声…。
じんわりと胸が熱くなり、薫は紳一郎の華奢な身体を抱き返す。
「十市さんも、帰ってきますよ…!」
「…うん…」
小さな声で頷き、薫の肩に貌を埋めた。
…その肩口が、温かく濡れてゆく…。
強く抱きしめ、力強い声で繰り返した。
「…二人とも、元気に無事に帰ってきますよ。
もうすぐです…!」
紳一郎は、返事の代わりに黙って薫の背中を抱いた。
悪戯が見つかった子どものようにばつの悪い貌をする。
「…全く…お前は…。
来月からここの教師になるというのに、ちっとも自覚がないな。
日本は負けたんだ。
露骨に嬉しそうな貌をするな。
…生徒の中には身内を亡くしたり、家が空襲されたものもいる。
個人的感情を露わにするな」
紳一郎は美形なだけに、怒ると本当に怖い。
「…はい…すみません…」
しょんぼりと頭を下げる。
険しい表情のまま、紳一郎が近づいてくる。
「これから、学院も教育方針の修正や矯正を迫られるだろう。
僕たちは政府の発表に一喜一憂するわけにはいかないんだ」
「…はい…」
カイザーが足元で、困ったような貌をして薫を見上げている。
…カイザー…、主人のデキが悪いと、お前も苦労するなあ…。
…不意に、涼やかな花のような薫りと温かな体温に柔らかく抱き込まれた。
「…良かったな…。
…戦争が…終わったな…」
…震える掠れた声…。
「…紳一郎さん…」
抱きつかれているから、表情は見えない。
「…暁人が…帰ってくるな…」
…優しい…兄のような声…。
じんわりと胸が熱くなり、薫は紳一郎の華奢な身体を抱き返す。
「十市さんも、帰ってきますよ…!」
「…うん…」
小さな声で頷き、薫の肩に貌を埋めた。
…その肩口が、温かく濡れてゆく…。
強く抱きしめ、力強い声で繰り返した。
「…二人とも、元気に無事に帰ってきますよ。
もうすぐです…!」
紳一郎は、返事の代わりに黙って薫の背中を抱いた。
![](/image/skin/separater52.gif)
![](/image/skin/separater52.gif)