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片時雨を抱きしめて
第2章 第二章 片時雨

「なあ綿谷」
「なに?」
「教師っつうもんはやっかいなもんで家庭に介入できんのよ」
「うん」
「だから、教師じゃなくて一人の人間として言うけど」
「うん」
「年頃の女の子をさ、こんな時に外に放り出す親のことなんかもうほっといていいんじゃないか」
「自分で出てったんだよ」
「一緒。探しもしないで」
いつもの先生の声より少しだけトーンを低くして言った。心なしか言葉遣いも乱暴だった。
私ではなくママに怒っているように見えた。
__そうか、怒っていいのか。
ママに対して、怒っても良いのか。
ママに対して怒りの感情を持つことはご法度だと、勝手に自分に言い聞かせていた。いつも自分を責めてばかりいた。
「親御さんに連絡着く? 俺から話そうか」
先生が柔らかく笑って、先生の声のトーンに戻った。言葉も丁寧なものに戻る。
「携帯ない」
「電話番号は」
「知らない」
先生が困ったように笑う。私は意固地になって顔をしかめた。
「じゃあ家どこ? 送ってくから」
「___いやだ!」
反射的に、声が出た。自分でも驚くほど大きな声で、先生も目を丸くしていた。
家から飛び出す瞬間のママの顔が、フラッシュバックする。
あの、目。恨めしい目。

