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片時雨を抱きしめて
第2章 第二章 片時雨



「いない」
私はそっけなく答える。ママのほかに、私に血のつながった人は父親しかいない。父親には裁判所から接近禁止命令が出ている。私から近づくなんて、考えられない。

「だれも?」
「だれも」

わかった、先生は私の頭にまたポンと手を置いた。


「とりあえず今日はもう遅いし、俺んちおいで。いい?」


「えっ、でも。ひとりなの?」
「ん、そうだけど」
「彼女さんとか、__住んでないの」

先生に恋人がいないことは知っていた。せまくて女生徒の多い学校だ。若い男性教諭の恋愛話はすぐに出回る。

でも、聞いてしまうのは、私が恋に不自由だからだろうか__。

「んーいないよ。なんで?みんな噂とかしてんの」
先生が小さく笑う。
「うん。先生意外と人気なんだよ。みんな物好きよね」
「ええ、それひどくない?」
先生がまた声を出して笑って、私もつられて笑った。
言葉というものは、いくらだって偽れる。私の気持ちに、先生が気づく日は来るのだろうか。

ついた、先生の手が私の手から離れて車を止める。
「足平気?歩ける?」
ひどく汚れた私のはだしの足を見て先生が言う。私はまた小さくうなずき、車をおりた。


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