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朏の断片‐ミカヅキ ノ ダンペン‐
第2章 #1

いきなりキスをしたくなるなんて、少なくともそんなことは片桐の人生において一度もなかった。気がついたら体が動いた後だった。

それを思うと今さらながらに胸がドキドキするようで、自分自身に戸惑う。


(それやのに男やった)


車のトランクを閉めそのまま項垂れた。


(男やったのに、何でドキドキすんねん。男やったのに、何で嫌やないねん)


キスをする直前、そしてその後の上田の表情が片桐の中で何度もプレイバックする。


(男やのに、何でそんな可愛いねん)


しばらくそのまま考え込んでいたのだろう、背後に上田が来ていた。


「もう終わった?」


不意をつかれたせいで悲鳴をあげそうになった。無理矢理飲み込むと息の仕方も忘れたように体が軽くパニックを起こしているのがわかる。

そんなこと知りもしない上田は忌々しそうに目を細めて片桐を睨んでいた。

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