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愛妻ネトラレ 久美子
第6章 盆踊り 町内会長は好色爺
5年前。
久美子がちょうどお腹に下の子を身籠っていた頃。
俺達家族が北海道から、関東の今住んでいる土地に引っ越してきて間もない頃だ。

平日の昼間、俺は当然仕事にいっており、久美子は妊娠8ヶ月の身重な体に鞭うってなんとか家事をこなしていた。

夏場のうだるような暑い時期。
ミーンミンと蝉の大合唱の響く中、当時まだ車の免許を持っていなかった久美子は、大きなお腹でスーパーまで歩いて買い物に出掛けていた。
自転車は持っていたが、もしも転んで何かあったら、という思いが徒歩での買い物を選択させていた。

両手に大きな買い物袋を下げた、そんないつもの帰り道だった。
フゥフゥと汗をかきながら道路の端を歩く久美子に、黒塗りの高級そうな車が後ろから近づいてきた。

車の後部座席の窓が開き、『大変そうじゃの。送ってさしあげるから、乗るといい』
いかにも金持ちそうな老人が、ニコニコと人の良さそうな風体で話しかけてきた。

『いえ…、大丈夫です。心配して下さってありがとうございます』
久美子は当然、申し出を断った。
しかし、老人も久美子を車に乗せることを決めていたかのように『いやいや、荷物も大きく大変ぢゃろう。おい、黒岩。何しとる、荷物を預かってさしあげんか。』と運転席にいる男に命じる。

黒岩と呼ばれた男は、パッと運転席から飛び降り、素早く久美子の所に来ると『申し訳ございません、気が利かなくて。荷物をお預かりいたします』と丁寧に久美子に頭をさげる。
そして久美子にだけ聞こえるように小さな声で『町内会長様には逆らわない方がよろしいですよ』と耳打ちした。

たしかに歩いて帰るには、まだ家までだいぶ距離がある。
あまり頑なに拒まない方が良さそうな雰囲気を感じた久美子は、『じゃあ…すいません。お言葉に甘えさせていだだきます』と黒塗りの高級車へとお邪魔した。

『暑い中荷物を持ち歩いて大変ぢゃったろう。ワシの屋敷はすぐそこぢゃから、冷たいものでも飲んで少し休んでいくといい。』町内会長らしい老人は久美子に勧める。
『何、一休みしたら、またすぐ車で家まで送ってさしあげるでの。なぁ、黒岩』
『はい』短く返事をし、首肯する運転手。
町内会長の有無を言わさぬ雰囲気に流され、久美子を乗せた高級車は立派な門に「根本」と表札のある屋敷へと入っていった。
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