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唇果実
第3章 ユウリ
そして追い討ちをかけて初潮を迎えた。

掻きむしった外傷と膿、湧き出るドロドロした血液はユウリから清潔な下着を奪い取り、いつも分厚いスパッツで自らの恥部(文字通り彼女にとって恥であった)を覆うことになった。汚れた下着や瘡蓋と傷をまとった醜い肌を級友に晒したくなくて、ついには合宿をズル休みするほどに彼女の小学校生活は堕ちた。

楽しくても苦しくても、
嬉しくても悲しくても、
感情が沸き立つと身体中に痒みが襲いかかることを知っていたユウリは、殆ど心を石のように硬くした。

そして本当に集中できる興味の対象に向かい合い、我を忘れていられる時間を探求した。
運動も体温が上がってダメだったので、自然と知的探究心を育てることになり、その甲斐あって勉強の成績はいつも良かった。

彼女にとって中途半端な興味しか抱けない時間が最も苦痛で、それを理解してくれる大人も子供もいなかった。
両親は勿論心配してくれていたし、級友の中にもユウリに味方できる子は少なくなかった。
そんな優しい人が差し出す気晴らしや気遣いの大切さやありがたさは感じていたが、やはり突き放してしまう態度が自責も生んだ。それでも、休むことなく身体を襲う痒み疼きを、そに対抗すべく必要な精神力を、傷ついた自尊心を、他人が本当に理解できるわけはないと知っていたし、大した気休めにはならなかったのだ。

ユウリが他人に望む最良の対応は、放任だった。
皆に無関心でいて欲しかったし、とにかく放っておいて欲しかった。
何より苦痛だったのは、もしかしたらそんな風に望む自分の態度について回る寂しさや悲しさに、ちゃんと気付ける彼女自身の心の優しさだったのかもしれない。
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