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硝子の初恋
第11章 再び重なる心
「あー、小長井先輩!」

プールサイドに沙有里の元気な声が響く。

「こんにちは。受験勉強はかどってますか?」

まゆなが沙有里の後から声を掛ける。

小長井を見つめて、時折楽しそうな笑顔を見せるまゆな。

ダンッ
高臣は、抑えきれないイライラをぶつけるかのように、手近の壁を殴った。

その音に、プールサイドが静まり返る。

「まゆ、行ってやって?」

小長井がまゆなの背中を押す。

「……でも」

「いいから。コーチには上手く言っとくから」

小長井に促され、まゆなは、プールから出て行く高臣を追いかけた。

「高臣先輩!」

更衣室に入ろうとする高臣に、まゆなは声を掛けた。

「何?」

苛立った低い声。高臣はまゆなと目を合わせようとしない。

「手…擦れてますよ」

壁を殴った時に擦れた高臣の右手は、少し血が滲んでいる。

「着替える前に手当てしますね」

そう言って、まゆなは高臣の手を取り、更衣室に入る。

消毒液を染み込ませた脱脂綿で傷口の血を拭うと、本当にちょっとした擦り傷だけで、まゆなはホッと胸を撫で下ろした。

「ムカつく……」

「え?」

じっと床を睨んだままいた高臣が、不意に顔を上げてまゆなを見た。
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