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硝子の初恋
第13章 男としてのケジメ
「高臣、調子戻ってきたな」

記録会まで後3日。
自己ベスト真近までタイムを上げてきた高臣の肩をコーチが叩いた。

「神崎と仲直りした途端にスランプ抜けるとか、お前どんだけ神崎にハマってんだよ」

コーチの苦笑いに、高臣は少し赤くした顔を背けた。

「この調子で頑張れよ」

「はい」

笑顔を取り戻した高臣に、タオルを持ったまゆなが嬉しそうに駆け寄った。

「あ、そういえば…」

コーチが思い出したように呟く。

「あの立石のお嬢さん、転校は嫌だってごねてるらしいな。初めて反抗されたって母親がパニックになってるとか」

「転校?」

コーチの言葉に高臣が首を傾げ、まゆなはハッとした。

「ごめん、言ってなかったね。立石さん、婚約者がいて、4月には婚約者の家の系列の学校に転校するんだって」

「婚約者いんのに…何で……」

「親の決めた婚約者だからだろ。親に対する反抗心から高臣に手を出したんだろ。近々、その婚約者が立石の邸宅で一緒に住み始めるらしいからな。お嬢さんの内心は焦りに反抗に諦めにドロドロじゃねぇの」

黙り込む高臣の肩を、コーチはまたドンっと叩いた。

「気をつけるに越した事はないけどな……ここへ来てまたスランプは勘弁してくれよ?」

コーチの言葉を、高臣はハハッと笑い飛ばす。

「神崎は高臣にとってアゲマンだからな。記録会まで肌身離さずでいてくれよ」

そう言ってニヤニヤと笑いながら去っていくコーチの背中に、

「肌身離さず……生殺しが辛くてスランプだな……」

高臣が呟いた。
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